「東京大学の生命科学」シンポジウム

昨日、東京大学 安田講堂で行われた「東京大学の生命科学」シンポジウム
に行ってきた。これは、10を超える学部・研究科・研究所の生命科学関係の
研究者が発表を行う、というものである。東京大学では何らかの形で1/3の
研究者が生命科学の研究にかかわっているそうである(小宮山総長談)。


聞いていると、いろいろな研究がなされているのを知ることができて
面白かった。カルシウムが細胞のスイッチとして、筋肉だけでなく、
転写や受精・発生にもかかわっていること、細胞分裂の際に染色体が
減数分裂するが、その際にかかわっているコヒーシンとその分解を
守るシュゴシン遺伝子の話、ミツバチのダンス行動を処理し、採餌
行動と関連しているKakusei遺伝子の話、などなど、多岐にわたる
お話を聞けた。


竹内先生のお話も面白く、ナノ・マイクロの技術をいかに生命科学
応用するか、ということで、Lab on Chipや膜たんぱく質チップについて、
きれいな映像とともに紹介していた。とても小さい試験管を作ることで
水はほとんど同じ大きさの球形となり、それ同士をうまく磁場などで
制御することで、2つの球をくっつけることが可能となっている。また、
たんぱく質チップでは、小さい穴に脂質を入れて、そこにアクセスする
経路もつけることで、人工の膜たんぱくを作ろうとする試みを行って
いるそうある(下図)。竹内先生のお名前は以前から知っていたが、
研究については聞いたことがなかったので、面白かった。



また、河岡先生の発表はトリインフルエンザにかかわるもので、
パンデミックになった場合などのことを警鐘する発表であった。
20世紀には、スペイン風邪(1918)、アジア風邪(1957)、ホンコン風邪
(1968)と3回、インフルエンザが大流行している。そして現在、
トリインフルエンザが野鳥に蔓延し、人にも感染している。まだ人から
人に感染していないが、それが起きた場合、1週間で全世界に蔓延し、
20%〜40%の人がインフルエンザに係り、パンデミックが起きるだろう、
とのことだ。


細胞レセプターの認識特異性がトリインフルエンザでは、SA α(2-3) Gal、
ヒトインフルエンザでは、SA α(2-6) Gal となっているという。このため、
トリからヒトにうつりにくい訳だが、ヒトの細気管支、肺胞のあたりには
α(2-3)を認識する部位があり、そこから感染できるらしい。ヒトにうつった
あと、α(2-6)に変わると、ヒトからヒトに感染できるようになってしまう。
これがおきると、パンデミックになってしまう。


その後、ワクチンを作れるが3ヶ月かかり、2年目の流行を抑えることは
できるかもしれないそうだ。ただ、対策としては、効かない可能性もあるが、
タミフル(リン酸オセルタミビル)しか有効な手段がないとのこと。タミフル
備蓄が重要である、という内容であった。


トリインフルエンザについて詳しく知らなかったこともあり、仕組みを
少し知ったのと、パンデミックになるかもしれない危うい状態なのだ、
ということを初めて知った。どういう対策を採るべきなんだろうか、と
思ってしまう。すくなくとも、体力だけはつけておくか、と感じる。


今回、東京大学生命科学系について、幅広くさまざまな分野の話を
聞く事ができて、面白かった。今回3年目で、毎年開催するそうである。